~ あきらめないで。治療法があります ~
「よく寝た。あー気持ちよかった。」と満足感にひたるのも束の間、おしりの下に冷たい感覚がはしり、「ハッ」と思っても後の祭り、隠そうとしても隠し切れない事実に、なすすべもなく、しばらくたぬき寝入りをしていると、「いつまで寝てるの」と布団を引っぱがされて、描いた大きな地図があらわになり、自己嫌悪感とともに一日が始まる。というのは小学校1~2年生の時の私自身の体験です。今でも鮮明にあの時の自己嫌悪感を思い出せます。小学生になっても毎日夜尿がある子どもや、小学校高学年や中学生になっても時々夜尿のある子どもの悩みは深刻で、キャンプや修学旅行の日が近づいてくると恐怖です。小学生になっても毎日のように夜尿があると、本人も親も物理的に大変であるだけでなく、精神的にも悪影響を及ぼしてきます。だからといって、本人も親も恥ずかしくて誰にも相談できず、悶々としているのではないでしょうか。夜尿は確かに大人になると、ごく僅かの例外を除いて止まります。しかし、それまで何もせずに待つというのもみじめでかわいそうではありませんか。また、たかが夜尿といってもバカにできないこともあります。特に、大きくなってから始まったものは、糖尿病、てんかん、脳腫瘍、尿崩症などたちの悪いものが原因のこともあるのです。ですから、夜尿も病気と考えて、恥ずかしがらずに堂々と病院を受診していただきたいものです。
①何歳の時に受診したらよいのですか?
3歳の時におねしょをしても、誰もおかしいとは思いませんね。しかし、5歳になっても毎日おねしょがあれば、少しおかしいと思うでしょう。本人も5歳になると、何か人と違う悪いことをしているのではないかと悩むようになり、性格にも悪影響を及ぼしてきます。以下に詳しく述べますように、ちょっと気をつけると夜尿がなくなることもありますので、「小学校へ行くまでにはおねしょを止めようね」と説明して、5歳くらいに受診していただければ一番よいかと思います。
②まず、何かの病気による夜尿でないかどうか調べます。
朝一番の尿や、のどがカラカラに渇いた状態での尿を調べて、まず、腎臓に本当に濃い尿を作る能力があるのかどうか調べます。尿崩症という病気では、いくらのどをカラカラにしても濃い尿をつくることができず、夜中に長い時間トイレに行かずに眠っていると、どんどん薄い尿がつくられて膀胱から溢れ出し、夜尿になります。尿崩症には濃い尿を作るための抗利尿ホルモンが脳下垂体から出ない場合と、腎臓がこのホルモンに反応しない場合の二通り考えられます。前者の場合、
脳腫瘍によることがあり要注意です。また、検尿で尿の中に糖や白血球が出ていないかチェックして、糖尿病や尿路感染症による夜尿でないことを確認します。さらに、超音波で腎臓や膀胱に構造上の異常がないかどうかも見ておきます。しつこい夜尿の場合、ひきつけによる尿失禁である可能性も考えて、脳波をとることもあります。
③夜尿にはいろんなタイプがあります。
夜中に眠っている間は抗利尿ホルモンの作用によって、尿量が少なくなるように生理的に調節されています。もし、夜中の尿量が体重(kg)×5ml以上であれば、尿量が多すぎるための夜尿と考えます。一方、昼間に思いっきりおしっこを我慢しても膀胱に体重(kg)×7ml以下の尿しか溜めることができなければ、膀胱に尿をためる力が弱いための夜尿と考えます。そのどちらにも問題があるタイプと、逆にどちらにも問題がないタイプの夜尿があります。
④まず、生活を見直してください。
繰り返しますが、特殊な病気でない限り、夜尿は年齢とともに止まる
ものです。決して焦らず、叱らないようにしてください。本人もかなり傷ついています。まず、何とか夜尿を止めようという強い意志をもってください。遅い夕食で、水分をたくさんとった後にすぐ寝るというのが一番の夜尿のもとです。夕食をできる限り早くして、夕食時や夕食後はできるだけ水分をとらないようにさせてください。のどが渇いたら、氷をなめさせてください。寝る直前にはしっかり排尿してください。塩分のとりすぎも夜尿のもとです。辛いものは極力控えてください。そして、昼間、排尿訓練をして膀胱を鍛えてください。すなわち、少々尿がたまっても膀胱が耐えられるようにするために、トイレに行きたくなってもすぐ行かずに、少し我慢させましょう。膀胱にも筋肉トレーニングが必要なのです。夜中に目覚し時計をかけてトイレに行くというのは、成長ホルモンの分泌を悪くするなどのため賛否両論あります。夜尿の時間が朝のほうにずれてくると良いしるしです。もう少しがんばりましょう。
⑤以上、がんばってもダメだったら薬を出します。
まず、夜尿のタイプを分析して、それに合った薬を選びます。夜中の尿量が多いタイプの夜尿の場合には
トフラニールやアナフラニールという薬を寝る前にのんでいただきますと、経験上、約半数の人に効果があります。もし、脳波に異常な波が認められたら、テグレトールという薬が効くこともあります。少しの尿に対しても膀胱が過敏になっているためにおこる夜尿の場合にはポラキスやバップフォーなどの膀胱の緊張を和らげる薬が効くことがあります。たとえ薬で夜尿が止まったとしても、本人は大変うれしく、自信がついてきます。しっかり自信がついたら、少しずつ薬を減らしていって、やめることも可能です。
⑥最後の手段の点鼻薬
以上、いくらがんばっても、どうしても夜尿が止まらないこともあります。特に中学生以上になってきますと深刻です。修学旅行などが近づいてきますと、かなりのストレスです。こういった止むを得ない事情で、どうしても夜尿を止めたい時には、抗利尿ホルモン
を寝る前に点鼻してもらいます。強制的に寝ている間の尿量を減らしてしまうのです。これは、使い方を間違えると危険ですので、必ず医師の指示に従って、少しずつ注意して使いましょう。